失言 <パ*サ>

fidaythe132010-04-11

パズ×サイトー(サイトーの失言を良いように解釈するパズ)


















「ちょっと待て!落ちつけ!」
「女々しいこと言ってんじゃねぇよ。お前には勢いってやつが必要みたいだからな」
「馬鹿野郎がっ!女相手にもこんな乱暴にやってんのか」
「女には優しくするぜ。俺は紳士だからな」
「変態が…。力づくで欲望満たせりゃ満足なのか」
「だから。処女だってんならそれなりにしてやるって言ってるだろうが」
「はけ口はいくらでも有るだろう、何だってこんなむさ苦しい野郎相手に」
「俺で試してみたいと思ったから、部屋に来る気になったんだろうが」
「お前の何が善くて女が切れないのかって話をしてただけだろ!?言っとくけど俺はストレートだ!」
「知ってる。先客断ってお前に譲ってやったんだ、チャンスを無駄にするなよ」
「だから俺はソッチの気はねぇんだよ!」
「あーもううるせぇな。おとなしくヤられてろ。減るもんじゃねぇだろ」
「その腐った下半身潰してやろうか」










先ほどから平行線をたどったままの言い合いが続けられている。
サイトーは明らかに怒りをあらわにしており、パズの口調は普段通り淡々としたものだった。






外で飲んでいたはずが、いつの間にかおかしな方向に事が転がってしまった。
パズのセーフハウスに着くや否や玄関先で担ぎあげられ、ソファの上に放り投げられ、馬乗りの状態で見降ろされている。
完全に両足の自由を奪われ、もはや上半身でしか暴れることができない。
パズは自分のシャツのボタンをはずしながら、のうのうと話している。
何かの“準備”にでも取りかかっているかのようだ。
その先は想像したくない。





今置かれている自分の状態を好転できるとすればもはや言葉しか残されていなかったが
先ほどからこの男には何を言っても通じてはくれないし、衣服に掛けた手が止まることもなさそうだ。
そのうち自分の方にも手を伸ばしてきたら、できる限りの抵抗は試みようと考えていた。
義体相手のパズにどこまで逆らえるかは甚だ疑問ではあったが、
このまま奴の思い通りに事が運ぶのはもっと気に入らない。









そもそもこうなった原因は、毎夜パズが違う女と夜を共にしているという話から始まった。
行きつけのバーで二人で飲んでいたはずだったが、パズの背中越しにこちらを気にしている女が
二人いるということを伝えると、「今日はそんな気分じゃないから放っておけ」と言った。
一度でいいからそんなセリフを言ってみたいものだと、サイトーは返した。








「こういうところで引っかかる女たちは、お前の何にハマるんだろな」
「その言い方は心外だな。お前には見る目がないんだ」
「俺が女だったらお前みたいな見るからにタチの悪そう男には絶対に近づかないな。
 抜け出すのに苦労しそうだ」




パズは吸っていた煙草の煙に思わずむせた。








「俺を口説いてんのか」
「気色悪いこと言うなよ。同じ女とは二度寝ないって前に言ってただろ。
 でも二度目を求めに来る女も中にはいるだろうって話だ。そんな女たちが気の毒に思えて仕方がない」
「好き勝手いいやがる。知りもしないくせに」
「あぁ、残念だねぇ。俺が女だったらなぁ、お前の良さを分かってやれたかもしれないよなぁ」






サイトーはふふんと鼻をならしグラスの中身を一気に飲み干し、
先ほどの女たちをチラリと見やってから席を立ちあがった。







「俺は邪魔のようだ、女たちの視線が怖い。じゃあな」
「おい待て」







サイトーの後をパズはすぐに追った。
二人の女は頬杖をついて溜息を吐いた。






近くまでついでに送ってやると言うので、何も考えずパズの車に乗り込んだ。
だが乗ったが最後、全く違う方向へと走り出し、抵抗するサイトーを無視し自分のセーフハウスへと着いた。
そして今に至る。














「煽ったのはお前の方だ、責任とれよ」
「どういう解釈しやがったんだ、めでたい頭だな」
「あぁ、そうさ。だからこの際確かめてくれよ。俺がハマる価値の無いくだらない男かどうかを、な」









急に顔つきが変わり、勢いよく両腕を拘束された。パズは片手しか使っていない。










「クソが!いい加減にしろ!」
「おいおい。少しは雰囲気を大事にしろよ、俺は乱暴したくはないなぁ」
「どの口が言ってやがる。じゃあこの腕とその脚どかせよ。こんな強引なやり方お前の美学に反するだろ」
「色んなやり方が有っていいんじゃねぇか?お前こそいい加減認めろよ」
「認められるか!これじゃ強姦と一緒だぞ」
「下品なこと言うな。愛がなきゃこんなことしねぇよ」
「…本当に脳みそ腐った野郎だな。一回殺してやりたい」
「お前に殺られるなら本望だ」
「狂ってやがる」
「いい加減察しろよ、面倒くさい野郎だな。俺は紳士ではあるが気の長い男じゃないんだぜ」
「あぁ?」
「こんなに手間がかかること分かってるなら、初めっから女で済ませてる。
 何のためにお前を引きずり込んだと思ってんだ」
「…知るかよ」







いい加減この長ったらしい悪態の応酬を終わらせたいような、核心に近づいた口調だった。
お互いの動きが止まり、部屋の空気が一気に止まった。
静かすぎて耳鳴りのようなものが聞こえた。
パズはしばらくの間、険しい顔のままサイトーを見降ろした。何かを訴えるような眼差しだ。







サイトーは自分が置かれている状況をもう一度冷静になって客観視してみたが、
やはりその先の展開を考えると、受け入れろという方が無理だった。







本音を言えば、そういった性行為に興味が無いわけではなかった。
女が切れないパズのどこにそんな魅力的な部分があるのか知ってみたい気持ちは抱いていた。
だがそれを自分の身を以てしてまで確かめる羽目になるとは考えてもみなかった。
いや、実際のところ考えたことはあったのだ。
当然非現実的すぎて脳裏に残るようなことはなかったし、本来こんなに引きずるような話題でもなかったはずだ。
くだらない、どうでもいい事だ。さっさと終わらせればよかったのに。
一縷の迷いのせいでパズにこんな行動を起こさせ、サイトー自身の中でも答えを早急に出さなければいけなくなってしまった。








<何のためにお前を引きずり込んだと思ってる>






強く断言している割にはどこか曖昧な表現だ。
自分がただ単に性欲処理の道具として使われるだけなのか、そこにパズが言う“愛”とやらが存在するのか。
どちらにせよ結果的にサイトー自身が納得のいくような答えはそこにはなさそうだ。








「何黙ってんだ」
「…この状況がどうにかして変わらないものかと考えてみたけどな、どれもあまり良い結果にはならなかった」
「萎えるぜ、いちいちお前の言うことはよ」
「お前とこんな状況になるなんて考えたことなかったんだ、当然だろ」
「男女の関係や感情なんてものは予測できることじゃねぇだろ。それと一緒だ」
「意味がわからないな。じゃあ聞くが、お前の感情が俺に向けられた理由を教えろ」









核心をつかせるような質問だったかもしれないが、十中八九「性欲処理のため」と言うだろうと思った。
もしそれでなければ少しはパズの哲学を聞いてやり、人間性を理解してやらないこともない。
その後に隙を見計らって一気にねじ伏せてやろう。頭の中でそう順序立てた。








「感情の変化なんてものは自分の気付かないところで起こってるもんだ。言うほどの理由はねぇ」
「はぐらかすな、どうせお前のことだ。あるんだろう、きっかけが」
「無いって言ってんだろ、しつこい野郎だな。まぁしいていえば積み重ねだ」
「積み重ね?何の」
「お前と居る時間が増えりゃ、色々知りたくなる。人として可笑しなことじゃねぇだろ」
「…あまり納得いく答えじゃなかったな」









しばらくの沈黙の後パズは苛立ったように大きな溜息を吐き、両足と両腕の拘束を解いた。
雑な音を立てソファに座り直し、煙草を一本吸いだした。
色気も雰囲気もない会話になりすっかりやる気が萎えたのか、
横顔から先ほどまでのぎら付いた感じが消えていた。









「ノンケの奴を簡単に落とせるとは思ってなかったが、予想以上にてめぇは面倒くさい野郎だったな」
「戻れない道に容易く踏み込めるほど…俺は勢い任せで生きてないんだ」
「てめぇだってこういう世界で生きてんだ。男と関係持つことだって想定の範囲内だろうが」
「考えたこともない。男相手に恋愛感情なんか生まれるのか?」
「…分かってないな、何も」
「かもな」
「そんな堅苦しいことどうだっていいんだよ。好きか嫌いか。それだけだ。
 “お前を好きになったからヤりてぇ”と思った。こう言や伝わるか」








もう、どうとでもなれというような抑揚のない声でパズは話した。
溜息とともに、長く細い煙が暗い部屋を駆け抜ける。
部屋の空気は相変わらず張り詰めたままだった。
だがしばらくしてそれは、サイトーの漏らした笑い声によって断たれた。









「ほんとうだな」







あぁ?と悪そうな顔つきでパズが睨む。
まだこれ以上面倒くさいことを言うようなら、もう今日はセーフハウスから追い出してやろうと思った。









「きっかけなんて、どこで生まれるか分からないな」







さっきまで怪訝そうな顔をしていたサイトーが、顔を緩めている。








「分かりやすくて逆に好感が持てたぞ。下品な口説き文句だけどな」
「やっとやる気になったか」
「だからてめぇの解釈はなんだってそんな自分に都合がいいんだ!」





パズは急いで煙草を灰皿に押し付け、改めてサイトーの両足と両腕の自由を奪った。











end








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じれったいなぁ、さっさとヤっちゃえよw みたいな
ヤり切れなかったところがパズの紳士さかなぁ?
まぁサイトーも頭でっかちで面倒くさい人だと思う…