放置 <パ*サ>

fidaythe132010-04-12

パズ×サイトー(vs猫)







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「犬より猫の方が人間っぽくないか?こいつら人を見るだろ。扱いが難しい」







昔、猫も犬も飼っていたことがある、とサイトーは話し出した。
犬は、こちらが心を開けば、彼らも心を開いてくれる。
しかし猫は気まぐれな部分が多すぎて、しつけるのは無理だったとか。







「じゃあ何でそんな面倒くさいもん拾った」






え?と間の抜けた返事をしながら振り返るサイトーは、いつもより明らかにほころんでいる。
胡坐をかいてできた足のすき間には、真っ白な塊がうごめいていた。









サイトーのセーフハウスで飲もう思い連絡を入れたところ、今日は先客が居ると言われた。
ただ、断られることはなかったので、一体誰が来ているのか確かめたくなり向かうことにした。
その途中で「牛乳」を買ってこいとも言われた。




先客が居るのに自分を招き入れる。
となると顔見知りかもしれないな、と想像した。








「入るぞ」
「早かったな」
「客は?」
「こいつだ」









サイトーは口の端を上げながら、人差指で足元を指した。ここを見ろというような仕草だ。



「あ?ネコか?」








サイトーの元へ近づき足元を覗きこむと、まん丸で真っ白な塊がうずくまっていた。
その物体が何かは初め分からなかったが、やがてごろりと寝がえりをうち、
顔と手足が上を向いたので猫だと認識した。
気持ち良さそうによく眠っている様子がうかがえた。







「どうしたんだ、そんなもの」
「帰ってきたらバルコニーから鳴き声が聞こえたんだ。迷い込んだのか、親とはぐれたのか」








確かにまだ子猫だった。独り立ちするには幼すぎる大きさに見えた。
ふうんとパズは淡白に返事をすると、買ってきた牛乳を冷蔵庫へとしまった。


サイトーの向かいに座り、胸ポケットから煙草を一本つまみ出した。
咥えてライターを取り出したところで、サイトーがこちらを見やる。
一瞬二人の間の空気が止まったが、彼は何も言わずまた猫の方へ視線を落とした。
“吸うな”とでも言いたそうな雰囲気だったな、とパズは頭の中で溜息をついた。
火をつけられないままの煙草はパズに咥えられたままだった。








「体温がすごい高いんだ。驚くぜ」
「へぇ」
「抱いてみろよ」
「いいよ、俺は」
「動物嫌いだったか」
「猫は嫌いだ」






猫を優しく撫でながら、そうか、と少しサイトーが呟いた。







「飼うのか」
「いや。そのうち勝手に出ていくだろう。それまで置いてやるだけだ」
「今すぐは手放さないってか」
「滅多にない経験だからな。少しくらい楽しませてもらってもいいだろ?」






パズに対する返事はすべて猫に向けられていた。
しかも顔は相変わらず緩んだままだった。
指先で耳の後ろあたりをくすぐると、猫の耳はぴくりと動く。
それが楽しいのかさっきからずっと繰り返している。
やがて猫の意識が覚め、むくりと体を起こし気持ちよさそうに伸びをした。






猫はパズの方を見たがその目はすぐに真上にあるサイトーへと向けられた。
聞き洩らしそうなほど小さな鳴き声を一つ上げると、シャツに爪をたてながらよじ登り始めた。
落ちそうな体をサイトーは両手で包むように支えてやった。
自分の顔のあたりまで持ち上げると、猫はサイトーの顔を舐めはじめた。
くすぐったそうにそれを避けると、猫はより一層近づいてきて、お互いの距離が離れることはなかった。








「見せつけんなよ」
「可愛くないか、こいつ」
「全然」
「細い目がパズにそっくりだ」
「猫と一緒にするな…」






言いかけてパズは、はっとして顔を上げた。
サイトーは何食わぬ顔で、相変わらず猫に顔を舐められたままだ。






<こいつ自覚がないな>






今すぐに猫の首をつまんで、外に放り出してやりたい気分になった。
コイツが居る限り当分俺は放置されたままだ。
パズは頭を抱えて、咥えたままだった煙草に火をつけ猫を睨むと
相手もこちらをじろりと睨んだ気がした。












end









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愛情の一人占めって、きっと人間にも動物にもあるんじゃなかろうか
パズ放置プレイ過ぎて可愛そうだ