あえて <パ*サ>
パズ×サイトー(Mっぽいパズさん)
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その日、パズに違和感があった。
具体的に何がと聞かれるとはっきり答えられないけれど、“何か”が違う気がする。
「? なんだ」
髪型が変わったわけでもない。
表情もいつもと同じ。
香水も変わってない。
機嫌が悪そうな気配はしない。
「おい」
新聞をバサリと下すと、煙たそうな顔でサイトーを見た。
「まちがいさがしだな、こりゃ」
「なにが」
サイトーは後頭部をボリボリと人さし指で掻きながら、パズの頭のてっぺんから足先まで順を追って眺めた。
パズは「変な奴だ」と呟きまた新聞に目を落とす。
「爪…は切ってない。手の甲の傷…は3日前からあるな。その服…は色違いがあった気がする。
無精髭が微妙に生えてる…けど違うな。左頬が赤いのは一昨日の女だろうし…首筋のは…」
「おい、気持ちわるいな。一体何だってんだ」
苛立つパズをよそに、サイトーはまだブツブツと何かを呟いている。
「何も変わっちゃいないだろ、いつもどおりだ」
パズは両手を広げて、何もないことを明かす手品師か、
納得できない時に、よく映画の中で外国人がするかのようなジェスチャーをして見せる。
「いや。違う」
「…可笑しな野郎だな」
テーブルの缶ビールをぐいっと一気に飲み干し、キッチンのゴミ箱へ投げ入れる。
「ったく…ぬるくなっちまったじゃねぇか」
立ち上がるとサイトーに近づいてきて、彼が飲み残した缶にも手を伸ばし不味そうに飲み干した。
「あぁ」
「っおい!」
パズの胸倉をぐいっとつかみ、自分の顔の位置まで引っ張り下ろした。
「二重になってるぞ、右目だけ」
小さなその変形具合を物珍しそうに、右目のそこを覗き込んだ。
普段一重で目つきの悪いこの男が、二重になっただけでこんなにも表情が変わるものかと、
サイトーは笑いながら饒舌になっていた。
「でも腫れてるぞ。傷みたいだな」
まるで内科の診療医のように指で腫れているところをなぞった。
1センチほどの傷ではあるが、よく見るとそれは案外深く刻まれており、赤みも新鮮だった。
こんな傷どこでどう作ってくるのかと考えると、“女”の残した跡というセンが妥当な気がした。
任務の最中に負ったものならば自分が気づかないはずはない、という自信もあったからだ。
「…どうせ女がつけた傷だとか思ってんだろ」
「他に考えられないからな、爪後ってところか。愛を感じるねぇ」
サイトーは冷笑しながら、引き寄せていた手をパっと離した。
パズはその様子に一瞬眉をゆがませ、何か意を決したように息を吸い込んで態勢を起こした。
「あぁ、ゆうべのオンナは随分激しかったからなぁ。体中こんな傷ばっかりだ」
ため息をつきながらその様子を思い返すパズの顔には、文字通りいやらしい笑みが浮かんでいた。
それを見上げていたサイトーは眉間に太いしわを寄せ、口をあんぐりと開け放った。
「背中なんかよ、ミミズ腫れの嵐だぜ。皮がめくれてシャツを羽織ると気持ち悪いし、肩のあたりはこんなの
比べ物にならねぇくらい深い爪痕が---」
「それ以上言うなっ!」
サイトーはパズの口を勢いよく塞いだ。
「覚えちゃいないようだが、身に覚えはあるようだな」
「あぁ。まったく覚えてないけどな」
口にあてていた手を離し、パズの体をぐりんと回し、シャツをめくると
両肩の辺りから腰の方にかけて振り下ろされたとみられる、三本の赤い跡がくっきりと残っていた。
所々には、えぐられたという表現の方が近い傷もあり、そこは皮がめくれあがっていた。
「なあ、これって…」
「あ?」
相変わらずニヤニヤしたままのパズが、サイトーの顔を覗き込む。
「毎回か…?」
「そうだよ。表皮を取り換えたりもできるんだが、敢えて俺は残してやってんだよ」
蒼白したサイトーが恐る恐るパズを見上げた。
「愛を感じるだろ?」
end
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表皮交換する赤服たちもきっと慣れた手つきでしょう。